白波瀬エリ Age:26

音楽とわたし

私が歌手を目指したのは高校3年生の18歳の時でした。

自分が何者で、何をして生きていきたいか、初めて真剣に考えさせられる機会があったからです。

当時、私は大学受験を控えていました。何のために勉強をしているのか、いつも分からず、何か違うなと引っかかりながらも, 周りに合わせるかのように日々勉強をしていました。学校は、友達や彼氏に会える場所、大好きな音楽や体育の授業があれば楽しいかなと、そのくらいにしか考えず、特に明確な目的がないまま大学に進学する予定でした。

そんなある日、何気なく観ていたテレビ番組の中で、あるアーティストの特集を観ました。そこで、ヒット曲を生み出すまで、曲一曲が出来上がるまでの製作ストーリーを目の当たりにし、改めてそのアーティストの曲を聴いてみたくなり、夜な夜ないろんな曲を聴きました。

その時、初めて自分の未来を想像して、忘れていた感覚に気付かされました。私も歌いたい、届けたい、自分に正直に生きたいと思ったんです。

小さい頃から歌うことが大好きで、将来の夢はなに?と聞かれれば、歌手ですと答えていた自分がいたはずなのに、いつの間にかその夢を封印していました。

好きなことに正直に向き合い、その先をみることがなかった自分に気付かされ、なぜか無性に泣けてきたのを今でも覚えています。

自分なんて…と思う気持ちはありましたが、身をもって歌の力を感じ、心動かされた私は、この時歌手を目指すことを決意しました。

高校卒業と共に昼間はアルバイト、深夜にカラオケに行き自主練の日々でした。歌をボイスレコーダーに録っておき、寝る前に音源を確認するのが日課になっていました。この作業は、自分のイメージに届き切らず納得のいかない歌に悔しくなったりもしましたが、出したいニュアンスが出せた時の達成感を感じることもできました。

この時、知り合いの紹介でユニットを組み、オリジナルを数曲製作して、オーディションを受けることになりました。

それが初めてのオーディションで、大手レコード会社による、CMソング抜擢、デビューというチャンスがかかったものでした。

パートナーが作曲したものを私が歌い、戦いに挑みました。結果は最終選考で落とされてしまい、初めて現実を突きつけられました。

そこで、自分の方向性をプロの方に導いて頂きたく、このオーディションを機に当時のパートナーとは別々の道に進むことを決め、私は事務所のオーディションを受け、所属することとなりました。

初めて事務所に所属した私にとって、レッスンやレコーディングはとても新鮮で良い経験になりました。カバーアルバムに参加できることが決まり、初めてレコーディングブースに入った時の興奮は今でも覚えています。夢に一歩近づいた実感が湧き、本当に嬉しかったです。でもそれ以上に、出来上がった音源が店頭に並べられ、ダウンロードできたときや、家族や友達から聴いたよ!の一言が聴けた時、嬉しくてたまりませんでした。

それが20歳の時です。

それから今日に至るまで、何もなかった訳ではありません。でもあの時こうしていれば…そう思うことがいくつもあります。

悔いの残る生き方、取り組み方をしてしまったと後悔しています。

今回、このオーディションを受けたきっかけは、前の事務所を辞めてから数年間、肝心の表舞台に立つための挑戦をせず、ここまできてしまった悔いがあり、初心に戻ってやりなおしたいと思ったからです。

私は昨年、これまでの人生の中で一番辛い経験をしました。それは、今回の挑戦を心から応援してくれていた大切な人との死別です。

私の可能性をずっと信じ、そばにいてくれた特別な人でした。

私が今回強い気持ちで挑戦できたのも、その人の支えがあってのことで、一番に今回の事を報告したい人でした。

これ以上のない悲しみでした。その日から何もかも景色が違って見えました。

この出来事で、私はたくさんの人に救われ、改めて人は生かされてる事を知りました。一人ではとても乗り越えられなかったからです。

直後は、歌ですら何も聴きたくなく、音楽を受け付けない自分がいました。

その時思いました。信じてきた音楽ですらこの私を救ってはくれない。

喪失感でいっぱいになりました。もう心なんて失くしてしまいたいとまで思いました。

そんな自暴自棄になっていた矢先のことでした。

何かを期待していたわけでもないタイミングで、たまたま聴いた一曲に救われたのです。

すーっと心に染みていく感覚がありました。生を取り戻す事ができたのは、その曲との出会いのおかげでした。 私が私を取り戻せた瞬間でした。

今、心から音楽の力に感謝しています。

その曲を流すと、確かに救われるからです。

この命ある限り精一杯生きること、それこそが失った大切な人を本当の意味で大切にできるのだと気付けました。

そんなシンプルな答えを抱きしめることができた時、音楽が今ここにあり、一歩先の目標があることの有り難みを痛感しています。。

私は、たった一人の人間の持つ力、たった一曲の音楽の持つ力をこれからも信じていきたいです。そして、歌で 救われたこの経験を生かし、魂ある歌を届けていきたいです。

心の時代と言われる現代で、そっと寄り添う事ができ、明るい気持ちに引っ張れるような歌を、そしてどんな絶望の中にも未来に希望を持てば道は開けることを伝えられる歌手になります。

白波瀬エリ

Age:26